The Witcher 3: Wild Hunt - Complete Editionのレビュー
沼地のヴェレン、ひしめくノヴィグラド、風吹きすさぶスケリッジ。各地方が独自の光とパレットを持ち、職人の手仕事で描かれる。決して派手すぎない確かな密度が、ダークファンタジーを手触りある現実に根づかせ、Switchでもなお見惚れさせる。
マルチン・プシビウォヴィチとバンドPercivalの組は、スラヴのフォークを汲む。荒々しいフィドル、ハーディ・ガーディ、酒場と荒野の匂いがする喉声。剣を抜いた瞬間に音楽は硬質になり、やがて沈黙して大陸に呼吸を許す。その民族的な色彩が世界を信じられる土壌に根づかせ、ゲラルトの騎行と切り離せないものになっている。
戦火に蝕まれた世界で少女を追う旅は、明快な英雄も悪役もいない無数の人間ドラマの器となる。ゲラルトは疲れた傭兵として進み、灰色の選択を迫られる。一つのサブクエストが本筋に劣らぬ重みを帯びるのだ。
ただの魔物退治の依頼を受け、いつしか人間の悲劇に引き込まれる。今なお羨まれるサブクエストの筆致が、すべてを支える。生きた世界が一つひとつの選択に重みを与える。剣戟は年相応の古さを見せ、Switch版は明らかな描写の犠牲を払うが、拡張込みの完全版を手の中に収められるのは小さな奇跡だ。
ここでの引力は物語の密度にある。道端の掲示一枚でさえ丁寧に書かれた依頼を隠し、『続きだけ読もう』という思いが消灯を遠ざける。ゲラルトの強化、薬の調合、ウィッチャーの契約の追跡が、それぞれ手繰るべき糸を開く。世界は選択に反応し、どの寄り道にも本物の重みを与える。筆致の豊かさは今も十分に届き、ただ膨大な物量は主筋の切迫感を薄めることもある。
ウィッチャーの依頼は、他作品のメインクエストをしのぐことすら珍しくない。そこにこそ旅の真価がある。二つの拡張、グウェントのカード集め、ヴェレンとスケリッジの探索を合わせれば、水増しなしで軽く百時間を超える。使い捨ての依頼を拒む筆致こそ、その密度が今も手本とされる理由だ。